何も知らずに東京から移り住んだ岩手県遠野市。『遠野物語』の世界で出会ったのは、“シシ”になる人々だった。ひょんなことから岩手・宮城を中心に継承されてきた郷土芸能「シシ踊り(鹿踊・獅子踊)」の踊り手となった作家・プロデューサーの富川岳が書き下ろした渾身のノンフィクション『シシになる。──遠野異界探訪記』が6月23日に出版された。
「Reboot folklore」は、本書内で富川が掲げる重要なキーワードである。地域に眠る文化を呼び覚まし、現代のクリエイティビティを活かして時代と接続させ、強く共振させる。シシになって踊り、プロデューサーとして文化振興を行う中で、彼の中心にはいつもこの言葉があった。一方、国内外の祭りや盆踊りを追いかけながら、同時にアジアを中心とした現代の音楽シーンの取材を続ける文筆家の大石始は、「いま、フォークロアを再起動する試みは世界各地で行われている」と言う。国を超えて現代を生きる私たちは、一体何を蘇らせようとしているのか。土地の芸能と現代の音楽シーンを往来して思考する二人の作家が語る、現代フォークロア論。聞き手は、本書の解題と用語解説を担当した桜井祐が務める。