人は一生のうちに、なんど物理学と出会うことができるのだろうか。
幼いころは誰しもが見わたすかぎりの不思議に包まれて、「なんで」「どうして」「どうやって」とさかんに口にしながら世界とたわむれていた。一匹の虫が、一滴の水が、一つのおもちゃが秘めた不思議に魅せられて、なにかしら「もの」を考えはじめたとき、その心はもう物理学にふれている。
学校に入ると、理科の教科書のなかで、私たちはふたたび物理学と出会う。目に見える現象の奥にひそんだ深遠な法則。宇宙のかなたや原子の内奥に広がる人間的感覚をこえた世界。それらを、数学の言葉で想像していくための作法。そこには、もの言わぬものとの対話を続けてきた先人たちの、大いなる知恵が煎じ詰められている。
ただ、大人になってからも物理を学ぼうという人は、それほど多くはない。学校で「正しく解くべき問題」としてそれを与えられるからか。数式の難しさにさえぎられて、そのさきに広がる物理の風景にまで目が届きにくいためか。
理由は人によりけりだが、たいていの人は、人生のいつかどこかで物理学とはぐれてしまう。
だが、人と物理学との関係は、一度きりではない。人はなんど物理学とはぐれても、またどこかで巡りあうことができる。そして、物理学がものの見方を探求し、世界へのまなざしを深めるための学問とするならば、物理学と出会いなおすことは、この世界と出会いなおすことでもある。
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この度は、物理学との新たな出会いの機会として、宇宙物理学者の小林晋平・東京学芸大学准教授と、独立研究者の江本伸悟・松葉舎主宰によるトークイベントを開催します。
小林さんは、大学で宇宙物理学の研究をしながらも、NHK Eテレ『思考ガチャ!』の企画・司会に携わり、また音楽の響きわたるクラブで物理学の世界を体感するイベント「夜学/Naked Singularities」をオーガナイズするなど、人の暮らしと物理学のあいだに新たな橋をかける「実験」を続けてきました。
江本さんは、渦の物理を研究して博士号を取得したのち、新しい学問の場として私塾・松葉舎(しょうようしゃ)を立ちあげ、ダンス、野口体操、ディドロ、現代音楽、能楽、芸術、ファッションなど、さまざまな分野からつどった塾生たちとともに探求を続けてきました。
すでに物理学を好きな方はもちろん、いつかどこかで物理学とはぐれ、そのことを心残りに思っていた人が、ふたたび物理学と、そして世界と出会いなおせる機会となれば幸いです。
