ある晴れた日、
「ただいま」と声がして、あなたはこの小さな部屋に帰ってくる。
わたしは「おかえりなさい」と言わずに、台所で洗い物をつづける。
あなたの声が聞こえなかったフリをして……
あなたの顔を見たら、泣き崩れてしまうだろうから……
わたしは背中で耳を澄ます。
あの日からどれだけの時が過ぎたろう……
いつもあなたのことを考えているのに、もう、あなたの顔を思い出せない。
あなたの声を思い出せない。
ねぇ、どうして黙ってるの?
いつまで、そこに立ってるの?
台所の窓からは真っ青な空が覗いている。
あなたはわたしの背中越しに青空を見上げている。
わたしは、白いお皿を洗う泡だらけの自分の手を見ている。
もしも、あなたに会えるなら、今日、死んでもいい、と思う。
でも…… ほんとうに、あなた?
あなたじゃないとしたら?
あなたは、だれ?