今回は、「バイオ・バロック(生命の過剰さと歪み)」をテーマに、現代アートで国際的に活躍する3作家の映像表現に焦点を当てます。当館所蔵作家で世界的な評価を得るマシュー・バーニーの、国内では近年公開されていない『クレマスター』サイクル全5作一挙上映を行なうほか、緻密に練り上げられたSF的な物語と実写とは思えないまでの映像表現でカルト的な人気を誇るサスキア・オルドウォーバースの国内初の全作品上映、近年急速に国際的な再評価が進むピエール・ユイグの実験的な映像などをまとめて紹介します。また、金沢21世紀美術館で開催中の「コレクション展2『死なない命』」と関連させて、福島の問題を取り上げ国際的な物議を醸したキム・ギドク『STOP』、同展でDNA音楽《わたしは人類》を出品中のやくしまるえつこの映像作品の特別上映も行います。この貴重な機会をお見逃しなく!
映画の極意シリーズとは?
「映画の極意」シリーズは、金沢21世紀美術館シアター21を会場に、政治、社会、哲学、生と死、消費文化、人間の不条理、遊び、時代と娯楽、映像美といったテーマごとにセレクトした作品の上映を行う企画です。
◎各110席(全席指定)
◎マシュー・バーニー全作品鑑賞券にて6作品すべてをお得な価格でご覧いただけます。(限定15枚)
※友の会会員の方は入場時に要会員証提示。
※セット券、フリーパスは前売りのみの販売となります。
※前売券で定員に達した場合は、当日券の販売はありません。
マシュー・バーニー
1967年サンフランシスコ生まれ。ニューヨーク在住。高校時代はアメフト選手。イェール大学では医学部の予科に在籍し、体育学や美術も学ぶ。1993年ヴェネチア・ビエンナーレのアペルト部門「ヨーロッパ2000」賞、1996年グッケンハイム美術館の「ヒューゴ・ボス」賞など受賞多数。身体に負荷をかけて素描するパフォーマンス「拘束のドローイング」を続ける中、記録映像にフィクション的な要素を加えたビデオ作品に行き着く。1994年から2002年までの8年で断続的に『クレマスター』シリーズを発表。2005年ビョークと協働した『拘束のドローイング9』を発表し、金沢21世紀美術館での個展「マシュー・バーニー:拘束のドローイング」でプレミア公開している。
【クレマスター1】
1995年/アメリカ/カラー/35mm /40分/1:1.37/ドルビーSR
監督・制作:マシュー・バーニー
出演:マーティー・ドミネーション
米国・アイダホ州のアメフト用スタジアム。
コートではラインダンサーがマスゲームを繰り広げている。
上空にはグッドイヤーの飛行船「ブリンプ」が2つ浮かぶ。
その中で巨大な女性が何かを形づくっている。
全体はミュージカル仕立ての作風。
エアホステスの衣装はアイザック・ミズラヒのデザイン。
【クレマスター2】
1999年/アメリカ/カラー/35mm /79分/1:1.66/ドルビーSR
監督・制作:マシュー・バーニー
出演:マシュー・バーニー、ノーマン・メイラー(小説家)
米国・ユタ州のソルトレイク。
ロッキー山脈の麓には、フォードに乗った死刑囚のゲイリー・ギルモアがいる。
彼の人生を小説で書いたノーマン・メイラー(本人)が出演し、奇術師として一世風靡したハリー・フーディーニを演じている。
モルモン教、カントリー・ミュージック、蜂の生体が絡むゴシックホーラー風の作品。
靴の提供はプラダ。
【クレマスター3】
2002年/アメリカ/カラー/35mm /182分(途中15分の休憩)/1:1.66/ SRD
監督・制作:マシュー・バーニー
出演:マシュー・バーニー、リチャード・セラ(彫刻家)、エミー・マランス(モデル・アスリート)
ニューヨーク、マンハッタンが舞台。
二部構成で、前半はクライスラー・ビルで展開。
フリーメイソンの見習いが、一人前になろうと高みを目指すが…。
休憩をはさみ、後半はグッゲンハイム美術館へと場面転換。
ロタンダの構造をいかしたパフォーマンスが繰り広げられている。
アレキサンダー・マックイーンのモデルをつとめた義足のアスリート、エミー・マランスのコスプレも見どころ。
【クレマスター4】
1994年/アメリカ/カラー/35mm /42分/1:1.37/ドルビーSR
監督・制作:マシュー・バーニー
出演:マシュー・バーニー
イギリス王室属領のマン島。
外周を使って開催される公道レース「TTレース」から、”ライダーの聖地”と化している。
そんなレースの再現かと思いきや、ブルーとイエローのバイクは逆方向に走り出してしまう。
牧神、サテユロスが登場するが…。
カルティエ財団と共同制作のシリーズ第一作。
【クレマスター5】
1997年/アメリカ/カラー/35mm/54分/1:1.85/ドルビーSR
監督・制作:マシュー・バーニー
出演:マシュー・バーニー(1人3役)、ウルスラ・アンドレス(『007ドクター・ノオ』)
ハンガリーの首都、ブダペスト。
映画『007』でボンド・ガールを演じたこともあるウルスラ・アンドレスが”鎖の女王”だ。
彼女が想いをよせるのは”脱出の名人”と異名を取る奇術師。
その奇術師は、ドナウ川にかかる橋から落下の大脱出を試みるが…。
絢爛豪華なオペラハウスでは、ブダペスト交響楽団が実際に演奏している。
クレマスター 全作とも
脚本・監督:マシュー・バーニー
制作:バーバラ・グラッドストーン、マシュー・バーニー
音楽:ジョナサン・ベプラー
『クレマスター4』のみ
制作:アルタンジェル、カルティエ財団、バーバラ・グラッドストーン
プロデューサー:マシュー・バーニー、ジェームズ・リングウッド
【拘束のドローイング9】
2005年/アメリカ/135分
脚本・監督:マシュー・バーニー
制作:バーバラ・グラッドストーン
音楽:ビョーク
出演:マシュー・バーニー、ビョーク
舞台は日本。ある石油精製所で阿波踊りの隊列に先導されたタンクローリーが、伝説の捕鯨船「日新丸」の脇に停まる。タンクの液体は船上にある巨大な鋳型に流し込まれ、船が南極に向けて航行する中、“フィールド・エンブレム”の形を成してゆく。そこへ、遙かかなた別々の地から運ばれた男女ふたりの西洋の客人(マシュー・バーニー、ビョーク)が辿り着く。身を清め、毛皮の婚礼衣装をまとい、貝の柱が立つ船内の茶室に導かれた男女は、奇妙な器で茶を一服するうちに恋に落ちていく。
ピエール・ユイグ
1962年フランス生まれ。現在パリおよびニューヨークを拠点として制作活動。 1990 年代から、映画の構造を利用してフィクションと現実の関係を探る映像作品や、美術館、展覧会、近代建築、あるいは著作権や祭事などに潜む制度に注目したプロジェクトを発表。2001年第49回「ヴェネチア・ビエンナーレ」にて審査員賞を、2002年グッゲンハイム美術館の「ヒューゴ・ボス」賞を受賞。2013年にはパリのポンピドゥー・センターを皮切りに一大巡回個展「Pierre Huyghe」がドイツ、アメリカを巡回など、現代美術の開拓者/越境者として国際的に極めて高い評価を受けている。
【短編作品選】
1999年-2014年/フランス/90分
全4作品:
『100万の王国』(1999)
『A Journey That Wasn't』(2005)
『A Way in Untitled』(2012)
『Human Mask』(2014)
世界的に話題を呼んだプロジェクト「NO GHOST JUST A SHELL」の初期作品から3.11以後の福島を主題にして大きな議論を生んだ『Human Mask』まで代表的な短編4作品をまとめて上映。
【The Host and The Cloud】
2009年-2010年/フランス/122分
明確なストーリーを持たない2時間超の映像作品。 本作品はパリ市内の郷土博物館(現在は閉鎖)にて、ハロウィーン、バレンタインデーそしてメーデーの3日間にわたり撮影された。超現実的な裁判の情景、有名モデルによる美術館でのキャットウォーク、催眠療法を受ける患者と医師との会話、マクドナルドのキャラクターに扮した女性のダンス、館内を歩き回る裸の女性と子供といった多彩な情景や登場人物が、錯綜する複数の時間の中で一見脈絡なく映し出される。公開当時、「主題なき心象への旅」とも評された本作は、ユイグ以降の偶発性を主題とする物語なき映像作品を読み解く手がかりが隠された、巨大な迷宮のような存在と言える。
サスキア・オルドウォーバーズ
1971年オランダ生まれ。2003年のバーゼルアートフェアでバイローズ・アート賞、翌年には英国のベックス・フューチャー賞を受賞。2005年に美術雑誌「ART FORUM」の「ベスト・オブ2005:11人の批評家とキュレーターがアートの一年を通して決定」に選ばれる。1本の作品制作に1~2年の時間を要するため、これまで9本の作品しか発表していない。CGは使わず、ミニチュアセットを組み、実写だけで制作した映像は、そのすべてがハイクオリティで、意識の流れと地続きに繋がるような、底知れない透明感を持つ。私たちは何を現実と捉えているのか、その認識の危うさが問われる。
【全作品上映】
1999年-2017年/オランダ/120分
全9作品:
『Day-Glo』(1999)
『Kilowatt Dynasty』(2000)
『Placebo』(2002)
『Interloper』(2003)
『Trailer』(2005)
『Deadline』(2007)
『Pareidolia』(2011)
『Yes, These Eyes…』(2015)
『Pfui, Pish - Pshaw / Prr』(2017)
ローマ映画賞グランプリなど数々の受賞で話題を呼ぶオルドウォーバースは非常に込み入ったミニチュア・セットを制作し、それを撮影することで透明感のある不思議な質感を持つ映像を作り出す。人が全く登場しない無機質な風景の中、近未来の悲劇的でとても奇妙な物語が語られるが、実際の事件などから着想されているため誰にでも起こり得ると思わせる現実味を持つ。国内ではこれまで断片的にしか紹介されることがなかったサスキアの新作を含む初の全9作を一挙上映。
キム・ギドク
1960年韓国生まれ。映画監督、脚本家、映画プロデューサー。2003年、『春夏秋冬そして春』で韓国映画界最高の栄誉である大鐘賞と青龍賞受賞。2004年、『サマリア』で第54回ベルリン国際映画祭で銀熊賞 、『うつせみ』が第61回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞受賞。2012年「嘆きのピエタ」でヴェネチア国際映画祭金獅子賞。
【STOP】
2015年/韓国=日本/82分
監督:キム・ギドク
出演:中江翼 堀夏子 武田裕光 田代大悟 藤野大輝 合アレン
2012年「嘆きのピエタ」でヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝いたキム・ギドクが、東日本大震災を題材に日本で撮影した作品。東日本大震災に伴う福島第一原発事故をきっかけに、東京に移住した若い夫婦。だが、妻はお腹の子に対する放射能の影響に不安を抱き……。世界各国の映画祭で物議を醸し、 あまりの衝撃に上映困難とされた問題作が遂にベールを脱ぐ。
やくしまるえつこ
音楽家として「相対性理論」など数々のプロジェクトを手がけるほか、絵画やメディアアート作品の制作、楽曲提供やプロデュース、文章と多岐にわたる活動を行う。バイオテクノロジーや人工衛星、生体データを用いた作品、人工知能と自身の声による歌生成ロボットや独自のVRシステム、SMAPらへの楽曲提供やセーラームーンの主題歌までジャンルレスに活躍。近年の活動に、相対性理論×Jeff Mills「スペクトル」(2015)、相対性理論「天声ジングル」(2016)、「わたしは人類」(2016)など。2017年、「わたしは人類」でメディアアートの世界最大の祭典アルス・エレクトロニカで科学・芸術・テクノロジーを横断する革新的なプロジェクトに対して与えられるSTRATS PRIZEのグランプリを受賞。
【映像作品選】
2008年-2017年/日本/120分
やくしまるえつこの遺伝子音楽作品《わたしは人類》が展示されている金沢21世紀美術館コレクション展2「死なない命」に関連して、黒沢清や富永昌敬といった実力派映画監督からメディアアーティストの真鍋大度まで、幅広いクリエイターが携わってきた、相対性理論とやくしまるえつこの独自の映像世界を、映画館の大画面と音響で一挙上映。
主催:金沢21世紀美術館[(公財)金沢芸術創造財団]
提供:トモ・スズキ・ジャパン、Marian Goodman Gallery、TARO NASU、みらいレコーズ、Kim Kiduk Film/Allen Ai Film
協力:Japan Society (New York)
後援:在日 アメリカ合衆国 大使館
写真:Cremaster 1
1995 Matthew Barney, Photo Michael James O’Brien, Courtesy of Barbara Gladstone Gallery
写真:Cremaster 2
1999 Matthew Barney, Photo Michael James O’Brien, Courtesy of Barbara Gladstone Gallery
写真:Cremaster 3
2002 Matthew Barney, Photo Chris Winget, Courtesy of Barbara Gladstone Gallery
Cremaster 4
1994 Matthew Barney, Photo Michael James O’Brien, Courtesy of Barbara Gladstone Gallery
Cremaster 5
1997 Matthew Barney, Photo Michael James O’Brien, Courtesy of Barbara Gladstone Gallery
DRAWING RESTRAINT 9
©2005 Production Photo: Chris Winget
Courtesy Gladstone Gallery, New York and Brussels
Saskia: Yes, These Eyes are the Windows 2015
Voice over Tom Brooke
18 min HD video for projection
STOP: ©Kim Ki-duk, 2015.
Pierre Huyghe:
One Million Kingdoms, 2001
Animated film, approximately 6 minutes
Courtesy of the artist and the Marian Goodman Gallery, New York
The Host and The Cloud. 2009–10. France. Directed by Pierre Huyghe. Courtesy Marian Goodman Gallery.
©YAKUSHIMARU Etsko