薄暗いあたり一面は、池の底。人間が投げ込んだ石が陰謀ではないかと騒ぎ出す蛙たち。アオガエルとアカガエルの戦争・政治に、捕虜であり通訳のシュレは巻き込まれていくー。
劇作家・木下順二が1951年に発表した『蛙昇天』。すでに忘れ去られた一つの政治事件をモチーフにしたこの寓話が、いま、六十年もの時を経て幕をあけます。さあ、蛙の鳴き声によおく耳を澄ませてごらんなさい。ひとつひとつの鳴き声に、個性がある。思想がある。心理を希求する叫びがある。思想弾圧や政治によって自己の存在を否定されてしまう理不尽さも、生き生きとしたこの国の言葉の美しさも、時を超えて、あなたの耳にはっきりと聞こえてくるはずです。
演出に長塚圭史を迎えて、「時代と地域に残る作品創造」をテーマに東北は仙台の地で1年のクリエーションを行った『蛙昇天』。余韻が残る今春、ふたたびの登場です。