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映画「#000(シャープスリーオー)」特集

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Special Interview

“人は変われるのか?”を
テーマに挑んだ2人が
本作を通して見つけた自身の変化

Koji Uehara(監督)
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梶田冬磨(『Light in the bathroom』主演)

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台詞による言語表現を極力排し、仕草や表情といった役者の表現と繊細な映像美で構築された物語が、我々に問いかける。
人は変われるのか? そのキッカケはどこにあるのか?――と。
3話のショートムービーからなるオムニバス映画『#000(シャープスリーオー)』は、大阪を中心にアングラなシーンからメジャーシーンまで幅広く活躍し、今もストリートカルチャーのアイコン的存在となっているKoji Ueharaの初監督作品。
観る者の想像力を掻き立てる美しい映像と哀しみを湛えた物語は、その強面な風貌とはギャップのあるものだが、語る言葉の純粋さとは真っ直ぐに繋がっている。
「自分の中にある偏見を一つでも取り除きたい」と話す彼が映画を撮った理由と目的、そして自身の変化について、3作の中で中心的役割を果たす『Light in the bathroom』の主演・梶田冬磨も交えて語ってもらった。

取材・文/清水素子 撮影/森崎純子

「音楽を始める前から、ずっと映画を
やりたかったんです。
“映画を撮りたい”という道のりの中に音楽が登場した感じでした」
(Koji Uehara)

──これまでハードコアバンドのヴォーカリストやラッパーとして活躍されていたKoji Ueharaさんですが、今回、なぜ映画を撮ることにされたんでしょう?

Koji Uehara 実は音楽を始める前から、ずっと映画はやりたかったんです。僕の父が映画好きで、幼少期の頃からなぜか兄弟の中で僕だけ映画館に連れて行かれたりしてたんですよ。もう意味もわからないまま、たくさん映画を見せられていた記憶があって、その頃から映画を作りたいと思ってたんです。

──その中で、特に印象に残っている映画ってあります?

Koji Uehara 『クレイマー、クレイマー』を観て、意味もわからず泣いてた記憶はあります。で、意味がわかるようになってから観て「こんなに良い映画だったんだ!」って気づいて、大人になって観たらさらに深みがわかって、また最近も観たんですよ。そしたら、また違ったものが見えて。“映画というのは年齢が変われば違ったものに見える不思議なものだなぁ”と。

──そこは音楽と似ていますよね。最初は理解できなくても、後から“あ、こういうことだったんだ”と気づいて、自分の成長や変化を感じたりする。そのせいか、ミュージシャンで映像をやる人って多い気がします。

Koji Uehara そんなめちゃくちゃ遠いものじゃないですよね。どちらも他人との共同作業で創り上げていくもので、例えば今回の映画に出演してる子たちは、バンドで言うところのメンバーみたいな感覚なんです。ただ、僕の場合は“映画を撮りたい”という道のりの中に音楽が登場しちゃった感じで、その音楽に縛られ続けた20年くらいの時間があったから、なかなか動けなかったんですよ。映画を作るということに、なかなか踏み切れなかった。それが2年くらい前かな? 楽曲提供を頼まれるようになったり、自分のバンドのMVを本格的に監督し始めるようになったタイミングで、“今だったら、もう、やれるんじゃないか?”と思ったんです。で、ウチのマネージャーに「俺、今から映画撮るから、2月に上映会の場所押さえとけ」って言ったのが、2018年の11月中旬。

──ええ! いきなり?

Koji Uehara だから「映画の上映会ってどういうことですか?」って、スタッフみんな混乱してましたね。その時点では脚本も無かったんですけど、3話目の『Light in the bathroom』だけは構想があったんで脚本を書いて、新しく1話目と2話目も作って。速攻役者やスタッフに集まってもらって12月にかけて撮り、1月に編集と音楽をつけて2月に関係者上映会をやったという流れだったから……超大変でした!

──そりゃそうですよ(笑)。キャストはどんな基準で選ばれたんですか?

Koji Uehara 今回のポスターの写真が、梶田くんも出演してくれてる3話目のセットで、映画なのに役者がいないんですよね。部屋の中にソファが置いてあるだけで、でも、この中に人が配置されるのが映画だと僕は思っているんですよ。いつも言ってるのが、僕、高倉健さんが大好きで。僕には演技の上手い下手なんて正直わからないんですけど、札幌の無人駅で雪降ってる中で笛吹いて旗振ってる姿が絵になるなんて、あの人しかいないじゃないですか? 映画に対しては常にそういった目で見てるんで、今回も“このポスターの景色に溶け込む人たちが欲しい!”という観点でキャスト選びをしました。梶田くんもプロフィールの写真を見たときに、“俺が頭の中に描いてる話に合いそうだなぁ”と感じて、だから別にオーディションとか演技チェックもしなかったんですよ。

「撮られた作品はすごく繊細で、
こんな方からあんな映像が生まれるんだなと」(梶田)
「すみません、こんなナリでも繊細なんです(笑)」(Koji Uehara)

──梶田さんは、それまでに監督の作品をご覧になったことはあったんですか?

梶田冬磨 MVだったりは“ご覧”に……。

Koji Uehara ちょっと面白い子なんですよ!(笑)

梶田冬磨 自分、音楽のほうは詳しくなかったんですけど、自分の親世代の方に「次、こういう方の作品に出演するんだ」って言ったら結構知ってる人もいて、“あ、すごい人なんだ”とは思いました。で、いざ会ってみたら、こういう方で(笑)。でも、撮られた作品はすごく繊細なもので、こんな方からあんな映像が生まれるんだなと。

Koji Uehara これ、見出しにしてくださいよ!“こんな方から、あんな繊細な映像が”って(笑)。

──ちなみに、作品のテーマは3本通して“人は変われるか?”だったそうですが、なぜ、ここまで人間の根源に迫るような普遍的なテーマを採ろうと?

Koji Uehara 常に自分自身にも問いただしていることでもあって、自分が初めてストーリーのある映像作品をやるときには、それをテーマにしたいとずっと考えていたんです。勝手な話ながら他人にもソレを求めているし、とはいっても別に英語が喋れるようになったとか、15キロ筋肉つきましたとか、そういうレベルのものじゃないんですよ。例えば梶田くんが主演してる『Light in the bathroom』は今回の3話の中でも中心になるストーリーで、主人公はいつも彼女に“トイレの電気を消せ”って怒られているような子なんですね。それが彼女がいなくなったことで最後、自分で消しに行くというストーリーなんですけど、その程度のことでも人って絶対チェンジしているはずなんです。服を畳まない人が畳むようになっただけでも、いろんなことがそこから影響されて変わっていくはずで、そんなに“変わる”って大袈裟なことじゃないと思うんですが、皆さんどうですか……?っていう問いかけを、僕はこの3話でしたかったんですよ。

──なるほど! いや、非常に繊細ですね。

Koji Uehara 繊細なんですよ! すみません、こんなナリでも繊細なんです(笑)。

梶田冬磨 なので台本もほぼ台詞が無くて、最初に頂いたときはビックリしました。そんな中で“変われるか?”というのを考えると、そんな別に大きなことじゃなくて、小さなキッカケでいいんじゃないかと思ったんですよ。それが『Light in the bathroom』ではトイレの電気になるので、電気を消す指を何本にするかとか、そういうところまで考えましたね。台詞が無いぶん、ひとつひとつの表情だったり仕草が大事になるので、今までやってきた作品の中でも一番難しかったです。

Koji Uehara 彼なんてまだ19歳で、僕からしたらホント子供の歳なんですけど、ちょっとこの世代を舐めてたというか。みんなすごく勘が良くて、僕がこの作品の中で何をしようとしてるかを、とことんまで説明しなくてもスッと理解してくれてるっていうのは、現場にいながらわかりましたね。

──ええ。なにげなく梶田さんが歩く姿からも哀しみや後悔が滲んでいて、観ていて感じるものがありました。

Koji Uehara ありがとうございます。だってあの話、シンプルに言ったら電気消し忘れたのを消しに行くだけの、たったそれだけの話ですからね!(笑) でも、そんな単純な動作すらも、こうすればひとつのストーリーになるんじゃないのか?っていうのが、ずっと自分の中にあったんですよ。そしたら関係者上映会で泣いてくれる人とかもいて、“この短い分数で、そこまで感じ取ってくれる人もいるんだ”と、すごく嬉しかったです。

「試写会で初めて観たとき、
綺麗な映像に言葉が出なかった。
3作品全部違って、
それぞれの良さがあるのがすごい」(梶田)

──観る側の感性も問われる作品ですよね。そういう意味では、ちょっと怖い。

梶田冬磨 試写会で自分が初めて観たときも、言葉が出ないっていうか。こんなに綺麗な映像観たことない!って思ったんです。世界観も独特だし、2話目の『701号室』は音声も面白くて、聴いてるだけで楽しめそう。で、1話目の『Instant Life』は監督のことを元から知ってる人からすると、一番観たいような作品になっていて、3作全部違ってそれぞれの良さがあるのがすごいなぁと。

Koji Uehara ありがとうございます!『701号室』は今、流行りのASMRを意識していて、それで卵を割ったり焼く音を話の冒頭でフューチャーしてるんです。あとは作中に出てくる死神みたいな存在を、どれだけ不気味に描けるか?というのも僕の中では大きなポイントで、正直、最初はめっちゃチープな感じにしかならなかったんですよ。それで当日その場で照明さんに無理を聞いてもらって、部屋の中に影をたくさん作って。その中だけで死神に演技してもらったら、ホンマに影だけが動いてる風になったんで、絶対これや!と。実際、プロのカメラマンに観てもらったらめちゃくちゃ褒めてもらえて嬉しかったですね。