“人は変われるのか?”を
テーマに挑んだ2人が本作を通して見つけた自身の変化
Koji Uehara(監督)
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梶田冬磨(『Light in the bathroom』主演)
話が進むにつれて
3話目で“完全に騙された!”
という流れにしようと」
(Koji Uehara)
──いや、あれは本当に怖かったです。そして1話目にヤクザものを持ってくるというのは……変な言い方ですが、すごい勇気だなと。
Koji Uehara いや、ホンマ梶田くんの言った通りですよ。関係者上映会には僕の昔からの知り合いもたくさん来てくれたんですけど、「Kojiが映画撮るって、どうせヤクザとかが出てくるんじゃないん?」って言われるのは、初めからわかってたんです。だから、あえて1話目はその予想通りの作品にして、観た人に“ああ、はいはい。Kojiっぽいな”って思わせたところから、話が進むにしたがって“あれ? ちょっと様子がおかしいぞ”と戸惑わせて。で、3話目で“完全に騙された!”っていう流れにしようと。
──あえて偏見を利用したってことですね。
Koji Uehara そうそう。僕、性格悪いんで(笑)。ただ、あの1話目だって繊細なんですよ! 冒頭で主人公は人を殺すわけだから、あれは15分で殺人者に共感してもらわなきゃいけない、かなり無理のある話なんですよね。でも、あの作品の感想で一番多かったのが“なぜか切なかった”というもので、暴力の虚しさとか切なさを短時間の中できっちり描けたのかなという想いはあります。だから最初に殺される人間は、とにかく“こんな奴、殺されても当然や!”っていう風に見せたかったんで、僕のバンドでパフォーマーをやってる奴に頼んだんです。憎たらしい顔してるんで、こいつやったら大丈夫やろ!って(笑)。
──え、本職の俳優さんじゃないんですか? 主人公に命乞いする様子とか、ものすごい熱演でしたよ!
Koji Uehara そうなんですよ。あのシーンも最初は全然リアルじゃなくて、よくよく見てたら、殺す方も殺される方もあんまり下半身が動いてなかったんです。それで2人に「下半身を意識してくれ」って言ったらホンマにリアルな絵になったんで、自分も“演技は下半身も含めてなんだ”って勉強になりましたね。あと、殺されたあとに足だけ見えるようなアングルにしたのもこだわりで、変に死体をフューチャーするよりも、そのほうが不気味だろうと。
──ええ。心底ゾッとしました。そうやって1話目も2話目も、どこかに不気味な要素があるのに対して、ひたすら美しくて切ないのが3話目なんですよね。
Koji Uehara これが一番初めにできた話ですからね。でも、これだけじゃ恥ずかしいな……と創り足したのが、1、2話目なんです。
監督の始まりの作品に関わることができたのが本当に嬉しい」
(梶田)
──言ってみれば3話目へのギャップを作るための、壮大な前振りであったと。ちなみに『#000』というタイトルはどこから?
Koji Uehara 実は今、次の長編作品に取りかかっているんですよ。監督としてはそれが本格的なデビュー作になるんで、これは自分の中でも試作品というか、自分がどれだけのことができるのか試してみたという感覚なんです。そういった作品にタイトルは付けづらかったので、次の長編が1だとしたらこれは0だろうと。それが3作あるから『#000』にしたんです。とはいえ、そこに夢も希望もある若い子たちに付き合ってもらってるわけだから、ちゃんと世の中に発表したくて、今回、一般上映会をすることにしたんですけど。
梶田冬磨 そんな始まりの作品に関わることができたのが、本当に嬉しいです。俺自身にとっても、変われるキッカケになったんじゃないかと思ってるんで。
Koji Uehara ええこと言うやん!
──どんなところが変わったなと感じます?
梶田冬磨 映画というものに深く関わることが初めてだった上に、今までやったことのない芝居だったので、自分の演技の捉え方から変わりましたね。この作品をやる前は、自分で満足してた部分がどこかにあったんですけど、自分はまだまだだなって。
Koji Uehara インスタとかでバズっちゃって、12万人以上もフォロワーがいるからね。天下を取ったような勘違いをしてたのが、初心に返れたっていう。
──そういえば先ほど「面白い子なんです」とおっしゃってましたが、どのへんが?
Koji Uehara いや、コイツ撮影中は猫かぶってたんですよ! ただの可愛い顔した兄ちゃんみたいな感じだったのが、関係者上映会で大阪・名古屋・東京とバンドのツアーみたいに車で下っていって、ずっと一緒にメシ食ったり喋ったりするうちに、だんだんおかしくなってきて(笑)。さっきみたいに日本語が変になったり、変なテンションでみんなを盛り上げだしたりしだして、逆に親しみが持てましたね。
梶田冬磨 いや、撮影のときは緊張してたんです! 歳も一番下だったんで、なかなか素が出せなかったんですけど、俺、小学生のときから“バカ”というか。ずっと“何も考えてない”みたいに周りからも言われていて、それが中3のときに演技に出会って、演技をしているときだけは元の自分を捨てられるのが楽しかったんです。バカじゃない自分になれるのが嬉しかった。
Koji Uehara それ、すごいやん。まずは俺のことを騙せたってことやからね。俺はお前のこと、完全に映画のイメージ通りのクールでスタイリッシュな若者やと信じてたから。
梶田冬磨 最初に演技を学んだときに、「日頃から嘘をつくようにしろ」って言われたんです。それを実践してたら、どんどん考え方や捉え方も変わっていって。「ひとつのことを極めたら自分が出てくるから」って言われて、それが自分にとっては演技なんじゃないかと思ってるから、自分は演技を……頑張ります!
Koji Uehara ええやん!
彼のおかげでひとつ取り除けたのは
すごく大きい」
(Koji Uehara)
──監督自身は、この『#000』の制作で何か変わりました?
Koji Uehara めちゃくちゃ変わりましたね! 例えば梶田くんに関しての話で言うと、僕は正直SNS世代の人間じゃないんで、インスタとかツイッターのフォロワー数がどうのとか全然興味なかったんですよ。どうせチャラチャラしてるだけやろ!とかって思ってたんで、最初に彼のプロフィールを見たときも“その手の奴か”みたいな感じだったんです。でも、実際に会ってみたら彼の透明感がすごく好きになって、触れてみたら“こんなことを考えてるんだ”っていうのをめっちゃ学ばせてもらえて。人間だから、どうしても偏見ってあるじゃないですか。全てのことに対して。でも、それは自分が死ぬまでにひとつでも多く取り除いておきたいんで、彼のおかげでひとつ叶ったっていうのは、すごく大きなことですね。
──そんな2人にとって重要な作品を、ぜひ一般上映の機会に触れてほしいですよね。
Koji Uehara 短編ですし配給とかもついてるわけじゃないんで、おそらく映画館で上映するのは最後になるでしょうからね。もちろん出演してくれたみんなのキャリアのひとつになってほしいので、その後も何らかの形では観れるようにするつもりですけど、もう長編に移行しないといけないんで。
──ちょっともったいないですよね。2話目の音響とか、絶対スクリーンで観たほうがいい。
Koji Uehara そうなんですよね。来れる出演者は、みんな集まる予定です。(梶田に向かって)上映会、大阪も来れる?
梶田冬磨 はい。ぜひ!
「やらせてもらえる喜びしか無い」
(Koji Uehara)
──ちなみに、長編はどういった作品に?
Koji Uehara テーマは“ラブストーリー”です!なので『Light in the bathroom』的な要素がすごく強いですね。うちのドラムとか誤字チェックしがてら脚本を読んで、大泣きしてましたよ。めっちゃ良い話なんで、ホントに皆さん楽しみにしておいてほしいです!
──あれだけ繊細で美しい物語を描ける方ですから、そこに不安は無いです。ただ、映画を作るって、曲を1曲作るのに比べたら、かかる手間も時間も桁違いじゃないですか。監督として、その責任を一手に引き受けるというのはプレッシャーを感じたりしません?
Koji Uehara あんまりプレッシャーは無いですね。たぶん、僕は人に恵まれすぎてるんですよ。今回の長編も全く予算は無いけれど、いろんな人が“やると思ってたよ”って資金を用意してくれてたりするんです。映画制作のしんどい部分を担ってくれようとしてる人が周りにたくさんいるんで、やらせてもらえる喜びしか無い。
──……人徳ですね!
Koji Uehara いやいや。男にだけはモテるんですよ(笑)。