高橋まこと、62歳。職業、ドラマー。日本のロック・シーンに巨大な足跡を残すBOØWYから、今年結成されたJET SET BOYSに至るまで、時代を超えて強力無比なエイトビートを刻み続けてきた男。<ライブハウス>というテーマを語るのに、1970年代から2010年代まで、常にライブ・シーンの真っ只中に身を置いてきた、彼ほどふさわしい男はいないだろう。あの時彼は、何を思っていたのか。そして今、何を思うのか。話はまず、高橋まことにとって最も重要なライブハウス、新宿LOFTから始まる。
新宿LOFTは、やっぱりホームだね。
みんな仲よかったよ。
■先日、JET SET BOYSで新宿LOFTに出演された時に、「ただいま!」と言っていたのが印象的でした。やはりあそこは、特別な場所ですか。
あそこはやっぱりホームだね。移転したけど(*1999年に現在の場所へ移転)、昔のままの作りだから。テーブルとか、舞台のセットとか、床とか、昔の雰囲気になるべく近づけるように、全部持ってきたからね。楽屋のテーブルも、バーカウンターにあるでっかい時計も。雰囲気はけっこうそのままだよ。
■最初にLOFTに出たのは、BOØWYの時ですよね。
そう。だいたい、俺が一番最初にBOØWYを見に行ったのがLOFTだから(*1981年5月11日。初期メンバーによる“暴威”のLOFT初ステージ)。メンバーになって、一番最初に出たのもLOFT。
■当時から、ステイタスのあるハコだった。
うん。俺が東京に出てきたのは、1976年か77年だと思うけど、ライブは何回か見に行ってるんだよ。コンディション・グリーンとかね。あの頃は、レンガの壁があって、ステージを前にして右手が楽屋なんだけど、その手前にトイレがあって、そこに潜水艦のオブジェみたいなのが置いてあった。俺たちが出てた頃にはそれはなくて、壁も半分取っ払っちゃってたけど。
■時代で言うと、パンクやニューウェーブが全盛ですか。
全部入り乱れてたね。でも石井聰互さんの『爆裂都市』に出てるバンドとか、あんまりよくわかんなかったな。何やってんだこいつら、ヘタクソな演奏してんじゃねえよって(笑)。俺はほら、髪の毛長くてハードロッカーだったから。
■ああ、パンクとハードロックは、はっきりと住み分けがありましたね。
ただそれも、LOFTとかでぐだぐだに混じり合うと、それもこれも関係ねえやってなるから。けっこう仲よかったよ。布袋(寅泰)なんか、いじめられたりしてたけどね。ジャン=ジャック・バーネル(ザ・ストラングラーズ)が来て、ARBと一緒にやった時に、ジャンが布袋に目をつけて。自分よりデカイ奴がいるって(笑)。ちょっかい出してたのを覚えてるな。
■それは怖い(笑)。ジャンは空手有段者ですからね。
そうそう。日本に空手を習いに来て、キース(ARB)の家に泊まってた。そんなこともあったね。
■そういうバンドたちが、混ざり合う場所として、新宿LOFTがあったと。
LOFTには、本当に世話になったな。今みたいに“名前を入れておいてください”とか、そんなのないから。ぶらっと行って、“よう!”って入っちゃう。俺はよくPAの横で見てたからね。中は混んでるから、「ちょっとここいい?」「いいっすよ」って。けっこう見たよ。スタークラブが初めてLOFTに出た時も見たし、ローザ・ルクセンブルグとか、水戸華之助のアンジーとかも。どこの田舎もんだこいつらって思ったけどね(笑)。LOFTで初めてやるバンドは、ちょっと見とこうかって、よく行ってたな。
■まさにホーム。
あそこに何回も泊まったことあるもん。電車もねえし、帰るのめんどくせえから泊まらせてくれる?って。ベンチの上で寝てたりしたよ。
■それを許す空気があったんでしょうね。ファミリーな感じというか。
何かというと、みんな来てたから。打ち上げで場所が足りなくて、ステージの上にテーブル上げて、打ち上げやってた。たいていそうだよ、俺たちが行ってた頃は。沖縄のHEART
BEATSとか、アナーキー、ARBとか、みんなよく来てた。でも、金払った覚えはないんだけど、なんで酒が飲めたのか、今でも不思議なんだよね。
■それはLOFT様が偉いとしか(笑)。
だってみんな、本当にお金持ってないもん。ボトルを1本だけ入れて、ずっとキープ。そしたら、いつ行っても瓶の口まで酒が入ってる。店の奴が余った酒を入れてくれるんだよね。名前を書かないで、棚の一番端のうしろに置いといて。名前を書くと、“まことのボトルなら飲んじゃおう”ってなるから。飲ませねえぞと思って、奥に隠しておいた。で、「俺の」って言うとすぐ出してくれるんだよ。
■いい話ですねえ。
よくあれで、ちゃんとやれたよなあ。だって、どんなに客が少なくても、バンドへの(チャージ)バックは7割ぐらいあったんだよ。今みたいに、100人入らねえとバックが下がるとかじゃなくて、7割だよ。これ書いていいよ。要は、ミュージシャンに手厚かったってことだから。
■そうですね。
店は大変だと思うけどね。でもミュージシャンにしてみたら、7割バックはおいしいよね。今時ないもん。ただ、今は数が増えすぎたというものもあるんだよね。バンドの取り合いになってるところもあるから、ブッキング力がないと毎日埋まらねえじゃん? 昔はバンドの数が少ないから、小屋の数が少なくてもよかったし、反対に小屋のほうがバンドを選べるということがあったから。LOFTは、平日の昼とか、オーディション・ライブをよくやってたもん。そこからよさげなのを選んで、まず平日の夜から出てみろとかね。