2020年の東京オリンピックに向けた、コンサートホール改修工事などにより、大型ライブ会場が不足する「2016年問題」が話題となるなか、渋谷WWW
XやCONTACT、CIRCUS TOKYOなど新しいライブハウスやクラブのオープンも行われている激動の東京。かたや東京インディーやシティー・ポップといった音楽シーンの充実も注目を集める今、東京は音楽都市としてどのような状況にあるのか。今後どのような未来を歩むのか。出版社ロッキング・オンで『ROCKIN’ON
JAPAN』『BUZZ』『rockin’on』の編集に携わり、独立後も数々の媒体での執筆や、著作『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』で知られる、音楽ジャーナリストの柴那典氏に話を伺った。
「東京」には3つの捉え方がある
■柴さんは「東京」について、音楽という視点から見てどのような都市だと思われますか?
まず東京は日本の一都市というだけでなく「中央」という意味を持った場所だと思います。かつては日本の音楽文化が作られていくほぼ唯一の拠点であり、今もそうありつづけている部分があります。「音楽で一旗揚げる=東京にやって来る」という考え方ですね。ですので、昔から今に至るまで、日本の音楽における最大にして重要な発信拠点だと考えています。
■日本の都市としてではなく、世界の都市として見た場合はいかがでしょうか?
シンガポールや香港のように、都市機能だけで言えばアジアにも東京に負けない都市はいくつかあります。それでもアジアの中では、最も音楽文化を発信している都市だと思います。ロンドンやNYに敵うかと言われたらそれは難しいものがありますが。
■先ほど「東京=日本」というお話もありましたが「東京」が独自に生んできた音楽文化はありますか?
東京には3つの捉え方があって、1つ目は「ローカルとしての東京」、2つ目は「地方から上京する場所としての東京」、3つ目は「ロンドン、NY、パリと並ぶ世界的な都市としての東京」です。ここ数年で、「ローカルとしての東京」の音楽文化が、いわゆる東京インディーやシティー・ポップを含めて充実して来ている気がしますね。
■そうした東京ローカルの盛り上がりの要因はどこにあるのでしょうか?
「 東京以外が充実してきたこと」が東京の独自性につながっていると思います。最近はキュウソネコカミとかKANA-BOONとか、ヤバいTシャツ屋さん、岡崎体育など、関西、とくに大阪のロックバンドの元気がいいんですよね。ある種の関西的なコテコテさやユーモアを持ったバンドたちで、あきらかに東京のバンドとは雰囲気が違う。そして名古屋、福岡、北海道にも各都市らしさを持ったシーンが、インディーやライブハウスのレベルで存在します。それによって、東京は各地の人気者が一旗揚げる場所であり続けると同時に、ローカルとしての東京シーンも生まれて来ているんです。
日本最大の音楽都市としての渋谷、
ローカルとしての下北沢、歴史と混沌の新宿
■渋谷、新宿、下北沢それぞれどういった特色がありますか?
東京の特性として「東京」という街は実は存在しない、ということが挙げられますよね。実際には、渋谷や新宿や六本木のような駅を中心とした半径1km程度の街が点在している。最近では湾岸地域にも注目が集まってますが、ライブハウス的に言えば、やはり渋谷、新宿、下北沢が3トップだと思います。
渋谷は日本最大の音楽都市ですね。東京にも色々な街があるけど、ナンバーワンは渋谷だと思います。特に最近はスクランブル交差点で自撮りしている外国人がすごく多い。国際的にも観光スポット化しているのは間違いないですし、大きな財産だと思います。音楽的には最もフラットな印象です。
下北沢は東京ローカル色が非常に強い街ですね。インディーなローカルシーンがすごく強くなってきていて、NYで言うならブルックリンでしょうか。それくらいおしゃれになってほしいという思いも込めて(笑)。とはいえ、ブルックリンももともとおしゃれだったわけじゃなく、マンハッタンに比べて家賃が安かったからアーティストがそっちに移動しただけなんですよね。下北沢も渋谷に比べれば家賃は安いし、若くてお金のないアーティストやクリエイターが住んでいる。そこから生まれるDIYな空気というものが魅力的だと思います。
新宿は正直言い表すのが難しいですね。歴史的には渋谷よりも新宿のほうが文化の街だったわけで、どこか文学の匂いや、おしゃれとは違う歓楽街っぽさがある。渋谷にも歓楽街っぽさはあるけど、やはりプレイスポットでありライブハウススポットでもある歌舞伎町を擁しているので、新宿のほうがそうした雰囲気は強いですね。あえて言うならポスト・パンクやニューウェイブっぽさ、古き良きロックンロールやパンクのイメージもあるかもしれません。