1000人規模のコンサートとは
違った体験ができる
■最近、ライブハウスに“観に”行くことはありますか?
ナガイケ 自分たちがやったことのないハコにも行くことがあるんですけど、そこにはそこのムーヴメントがあるのかなっていうのを感じますね。ここから何か始まっていくんだだろうなとか、このバンドはそのハコが育ててるバンドなんだろうなとか、そういうのを感じに行くのが好きですね。自分がそういう段階を踏んでなかったというか、スクービードゥーに入った時には、人がそれなりに集まってる状態でやることが多かったんで……そうですね、ライブハウスに行くのが好きなんだと思いますね、自分は。昔は『ぴあ』のライブハウス情報をくまなく見るっていうのを毎週月曜の日課にしてましたから(笑)。
MOBY 『ぴあ』はね、ライブハウス情報の索引の“ス”のところに自分らのバンドが載ったときはね、ようやくかと(笑)。
■観る側にいた時、想い出深かったライブハウスはどこですか?
ナガイケ 高校生の頃、下北沢で初めて行ったライブハウスがSHELTERだったんですよ。最初、入る時にあの階段を自分は降りていいものかどうかって躊躇して、あの前を行ったり来たりしてましたね(笑)。ライブハウスの中の様子って、今だとネットで調べたりすればわかるけど、当時はあの扉を開けたらその向こうはどういう世界なのかっていうのが想像つかなかったので、とんでもない世界に足を踏み入れてしまうんじゃないかと。
マツキ 僕も高校生の時に、JAMでやってる<MARCH OF THE MODS>っていうイベントを観に行ってみたいと思って、ひとりで平日の夜に行って。JAMの前にモッズの格好をした人がわらわらいて、その中の人がチケットを売っていて、それを買ってJAMの中に入るまでの緊張感って尋常じゃなかったですね(笑)。扉一枚隔てた向こうで何をやっているのか、想像すらつかないっていう。いわゆる初めて出会う文化との接触っていうか、その衝撃はすごかった。出ていたバンドのクオリティーがどうだったかっていう記憶はないけど、それに触れるっていうことだけでも、扉一枚向こうの世界に入り込んだ価値があったような気がしますね。
■昔より入りやすくなったとは言っても、そこに非日常があるのは変わらないと。
マツキ やっぱり、1000人規模のコンサートとは違うんですよね。誰が音楽を鳴らしているのか知ったうえで参加するんじゃなくて、何が行われているのか、どんな人が出ているのかをあまり知らない状態でそこに踏み込むことは、ライブハウスに入りやすくなったと言われる今でも、体験として勇気がいることだと思うんですよね。でも、その一歩を踏み出した時に、何かしら自分の世界観は変わるだろうし、そういう経験をさせてくれるのがライブハウスのおもしろさのような気がします。人が何かしらの楽器を持って大きい音でなにか歌ってるみたいなことって念を飛ばす作業っていうか、それを味わうっていう部分ではどこのライブハウスでも変わらないと思います。それが友達のライブを観に行くっていうことだとしても、友達がステージに上がって何かを歌ってるっていうこと自体が日常とは違うことなので、そういう非日常の経験を味わえる場所ですよね。
コヤマ オレはね、ライブハウスに出入りするようになったのは、ライブをやるようになってからなんですよ。それまでライブを観るっていうのは、大きいホールとか学祭とかぐらいだったんで、ライブハウスに行くってなったときはもう、出るっていう時で。やっぱり最初に出たJAMの感じはすごく憶えていて、当時はあまり感じなかったんですけど、何年か前にひさびさにJAMに出て、そしたら、すっげえ暗ぇなあって(笑)。照明つけてるんですか?っていうぐらい。
■暗めなうえに、ステージとフロアの高さがあまり変わらないという。
コヤマ で、思い出してみれば当時こんな感じだったよなって。あの当時、JAMで何本かやったあと、下北沢でもやってみようってことになってやったんですけど、めちゃくちゃ照明が明るくて、すげえダセぇなって思ったんですよ(笑)。チャラチャラしやがってって。始めた頃は、そう簡単には人に理解されないだろう、わかってたまるかっていう気持ちで音楽をやってたから、その感じが真っ暗な新宿JAMの雰囲気に合ってたんですよね。今やったらさすがに暗いなって思うんですけど、その感じは十何年ぶりにやっても好きだったから、あそこはオレらの原点というか、ライブハウスの基準っていう。当時は練習もJAMのスタジオだったんだけど、夕方の6時ぐらいまで練習して、そのまま好きなバンドが出てたらタダで観るみたいな、そういうこともしてました(笑)。
MOBY 僕もライブハウスは“出る”のが最初でしたね。最初に出たのは本八幡(千葉)THE 3rd STAGE。それから大学に入って、新歓ライブを観に行ったのがJAMで、スクービードゥーに入って2本目のライブがClub
251。それが初めての下北沢だったんですけど、ブルー・チアーの「Summertime Blues」をやって、リーダーがギターをぶっ壊した時ですね。その辺から下北沢に引き寄せられていったんですけど、最初のうちは道がよくわからなかったんですよね。今思えばなんてことないんですけど、迷路みたいに思ってて。で、下北沢CLUB
Queとかに出るようになった頃からライブのチラシを撒いたりするのに古着屋さんの場所を覚えてって、下北沢のだいたいを覚えていくという。古着屋とかレコード屋とかにチラシを撒きに行ったりすると、そこで繋がりができて対バンが決まったりとか、下北沢は何かしらの出会いが多かった街ですね。
マツキ それこそ古着屋は、高円寺とかにもセンスの近い店がいっぱいあって、当時は撒けば撒くだけ客が来てくれたんですよね。60'sっぽい古着を扱ってる店とかでチラシを取ってくれた人が、なんかかっこよさそうだなって確実に遊びに来てくれたりっていう。チラシがかっこいいと、やってる奴もかっこよさそうっていうイメージが伝わるんですよね。
MOBY チラシを撒いたあとの充実感もハンパなくて、それで、自分へのご褒美だって飲みに行っちゃってたりしましたけど(笑)。
■そういった“足”を使った宣伝活動はSNS時代の今でも有効でしょうし、ライブハウスにチラシの折り込みに行った時に知ったバンドとお互いの様子を伺ったり、コミュニケーションの輪も広がりますよね。
ナガイケ ライブの終演後とかに、他のバンドがよくチラシを配ってますけど、そこでそのバンドを知ったっていう人もいたり、そういう予期せぬ出会いはSNSよりも“手渡し”での拡散のほうが確率が高いかも知れないですね。スクービーも出ていた<マーキービート>っていうイベントとかは、毎回かっこいいバンドが出てて、チラシもかっこよくて。その頃は僕もまだ観てた側だったんですけど、そこでいろんなバンドを知って。それから自分も出る側になっていったんですけど、その当時ライブハウスでよく一緒にやってたバンドって、いまだに会うと安心するところはあります。そのあと人気が出たバンド……たとえばフジファブリックとか、54-71のboboとか、KING
BROTHERSとか、the NEATBEATSとか、あの頃一緒に出てた人たちって、絆が強い感じがしますね。もう辞めちゃった人も少なくはないので、元気にやってると応援したくなるんですよ。