扉一枚向こうの世界に入り込んだ価値があった──と、リーダー、マツキタイジロウは、ライブハウスに通い始めた頃のことをそう振り返る。ロックとファンクの最高沸点“Funk-a-lismo”を提唱し、毎年80本ペースでステージの上から魂(ソウル)を放ち続ける4人衆、スクービードゥー。ホームだろうがアウェイだろうが関係ナシ、自身のツアーのみならずイベントやフェスの現場でも観衆のハートをガッチリと掴んできた百戦錬磨のライブ・バンドに、扉一枚向こうの世界──“ライブハウス”にまつわるエピソードを訊いてみた。
ライブハウスも、
ライブを観たい人たちも確実に増えている
■バンドのリハーサルはいつも下北沢のスタジオだそうですけど、スクービードゥーは下北沢がホームのバンド……という感じではないですよね?
マツキタイジロウ 下北ブーム(90年代終わりごろ)のときに下北沢でも活動してたけど、下北ブームに乗れたバンドではなかったですね(笑)。当時、レーベルも下北沢(K.O.G.A、DECKREC)でしたけど、いわゆる下北インディー系のギター・バンドって感じでもなく。もともと下北沢にどっぷり浸かってたわけじゃないんですけど、リハスタがずっと下北沢で、週1回か2回は必ず来てるから、東京の中でメンバーみんながいちばん来るところではありますね。
■活動を始めた頃は新宿JAMでのライブが多かったですよね。
マツキ 最初はJAMでしたね。その頃のJAMには、モッズとかガレージのシーンがあって、スクービードゥーもそういうバンドと一緒にやってはいたんだけど、そこの流れにも乗りきれず、そういう人たちと一緒にやってても同タイプの音楽をやってるわけじゃないよな?っていうのを感じて、下北沢CLUB
Queとかに活動の拠点を移すようになって。それからも、どこかのシーンに乗って活動してる感じではなかったので、結局そのまま20年、どこに属することもないまま。それが良かったとは思いますけどね。
■JAMは独特の雰囲気を持ったライブハウスですよね。
マツキ 昔はその、JAMの周りは恐かったですよ(笑)。
ナガイケジョー 駅から歩いて行くと不安になる距離ですからね(笑)。
コヤマシュウ ゴールデン街の横の<四季の道>を抜けてね。
オカモト“MOBY”タクヤ 歌舞伎町ですからね、JAMの住所は(笑)。
■スクービードゥーは東京で結成されたバンドですけど、活動を始めた当初、東京のライブハウス界隈にはどういう印象がありました?
マツキ やっぱり東京って、思っている以上にいろんなバンドがいるなあと。僕らが始めた20年前もそうだし、今もそうだと思うんですけどね。当時はオーディションライブっていうのがあって、日曜の昼の部に出て、良ければ次から夜の部に出られるみたいな。僕らは受けたことがないんですけど、聞いた話によると最近はそういうオーディションライブってあまりやってないそうなんですね。バンドが少なくなったのか、あるいはバンドのクオリティーが上がってるのか、その理由はわからないですけど。
■やはり、この20年で印象が変わったなって思うところもありますか?
マツキ ライブハウスは確実に増えてるし、ライブを観たいと思ってる人たちも増えてるだろうし、やりたいって人と観たいっていう人が正比例しているだけなのかも知れないですけど、生で音楽を聴くことに対して、昔よりは抵抗がなくなってるのかなっていう実感はありますね。オレらが始めた20年前とかはまだ、ライブハウスに行くのってわりと特別な行為で。もちろん今でもそう感じてる人はいるかもしれないけど、ライブハウスの敷居の高さみたいなものをそんなに感じずに足を運んで来る人が多くなったような気がしますね。
■SNSが普及した今、作り手が自分たちの音楽を拡散していく手段として、ライブハウスが絶対的な場所ではなくなったようにも思えますが、実はそうでもなさそうで。
マツキ たしかに、発信する手段は増えましたけど、生で、ひとつの空間で味わうっていうのはその場に来ないと味わえないでしょうしね。だからなのか、ライブハウスが潰れたっていう話はあまり聞かないじゃないですか。棲み分けもちゃんとできてるのかも知れないですし。
■やはり、東京はいろんなミュージシャンが集まってくる街なので、いろんなバンドにも出会えるし、出会いたいと思ってる人も多い。
マツキ そういうのはあるでしょうね。オレら世代になってくると、同世代とかちょっと下の世代で「こいつらのこと知らなかったな」っていうのはそうそうないけど、10代とか20代前半の若いバンドに対しては「これは知らなかったな」とか「この感覚は味わったことなかったな」みたいなバンドも多くて。今年の2月に<Young
Bloods>っていう20代のバンドと一緒にやるイベントを立ち上げたんですけど、そういうところで一緒にやるバンドって、感覚はすごくわかるんだけど、今まで聴いたことのない感覚というか、味わったことのない肌触りとか、そういうのを持ってるなって思うんですよね。その時に一緒にやったSuchmosとかnever
young beachとかも、ルーツになってる音楽がちゃんとあって、それはなんとなくわかるんだけど、そういうものを志してたようなオレら世代のバンドとは音の鳴らし方が確実に違う。20代前半ならではの新たな感性というか、そういうのに気づかされた時にハッとするし、東京のライブハウスではそういうバンドとの出会いが……地方よりあるって言うと語弊があるけど、すごく期待できる。