2024年11月、文芸評論家・藤井義允が『擬人化する人間 脱人間主義的文学プログラム』(朝日新聞出版) を上梓した。本書は2010年代の文学状況をまとめ、朝井リョウ、村田沙耶香、平野啓一郎、古川日出男、羽田圭介、又吉直樹、加藤シゲアキ、米津玄師といった作家やアーティストからどのような希望を見出すかを考えた書籍である。
本書のキーワードは「擬人化」。本来、擬人化はヒト以外に適用される言葉であるが、藤井はあえてアイロニカルに、それをヒトに対して用いている。 このアイロニカルな「人間の擬人化」状況が社会のさまざまな側面から感じられる一般的な感覚となっていると考えた藤井は、現代日本の純文学を俯瞰することで、なぜこのような感覚が生まれてくるかを多面的に考察した。
一方、今回の座談会のゲストとなる長谷川愛と宮本道人は、SF的な視点を通じて社会課題をあぶり出してきた作家であり、慶應義塾大学SFセンターに所属する研究者でもある。
長谷川愛は現代アーティストとして、社会構造が現在と異なる未来のあり方をシミュレーションするような作品を発表してきた。次々に新しいテクノロジーが生まれてくる社会のなかで、これからの人間はどのような生き方をしていくのか、これまでにない可能性や起こり得る問題点をリアルに描き出してきた長谷川は、「擬人化」というテーマにどう応答するのか。
宮本道人は『古びた未来をどう壊す?』『SFプロトタイピング』『SF思考』といった著作を通し、未来の価値観について議論するメソッドを構築している。 藤井とは批評家集団・限界研の同期であり、『現代ミステリとは何か』『プレイヤーはどこへ行くのか』『東日本大震災後文学論』『ビジュアル・コミュニケーション』など、複数の共著で藤井とともに文学やコンテンツを批評してきた。
藤井の『擬人化する人間』では、純文学におけるSF的要素、テクノロジーの扱い、ジェンダーの描き方などが分析され、われわれの人間観が変容してきたことが可視化されている。 SF、テクノロジー、ジェンダーといったトピックをふまえて作品制作を行ってきた長谷川・宮本は、これをどう読んだのか。
自分の「人間」らしさを確信しない3人が語り合う、『擬人化する人間』刊行記念トークイベント。
後援:慶應義塾大学SFセンター、ポストヒューマン社会のための想像学