人間の聴覚は意識せずとも何らかの音にフォーカスしています。
そして、ジョン・ケージが体験した無響音室のエピソードで知られるように人が完全な無音状態を体験することはできません。
それでもなお、『いま・ここ』に現れる音を聴き捉えようとする行為は‘常に開かれている状態’と‘知覚不可能な領域’とが混ざり合った状態へ分け入る一種の‘冒険’であるといえるでしょう。
近年、急速に注目を集めつつあるフィールド・レコーディングという形式は作曲された音楽ではなく、街や自然、音楽スタジオ以外での音を録音した音響作品です。
『聴くことのアレゴリー』では眼前に広がる世界を積極的に聴くことの形式の1つといえるフィールド・レコーディングに取り組む作家の態度やマイクなどの録音機器についてと音楽を再生する際の出口であるスピーカーとスピーカーから放たれた音と空間との関係についての思考を交差し共有することで聴覚から得られる世界の認識を新たにする試みとして開催致します。
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プログラム1 公開対談 聴くことのアレゴリー [14:00~15:30]
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スピーカー: 柳沢英輔、ばばまさみ、鶴林万平 [listude]
モデレーター: 岡村英昭 [immeasurable]
『聴くことのアレゴリー』の第一部(プログラム1)では、immeasurabe(l以下、imm)の代表である岡村が司会を担当し、柳沢英輔氏、ばばまさみ氏、鶴林万平氏のトーク・イベントを行います。
immからの初めてリリースした作品はこれまでに海外のレーベルからフィールド・レコーディング作品をリリースしてきた文化人類学者でもある柳沢英輔氏の作品『wetland』。
これは京都の深泥池にて録音された作品で雪が積もる寒い日の早朝、真夏の深夜、水中マイクを用いて池の中を録音した3つの音源で構成されています。
ばば氏は作家活動と並行しながらフォーリーを制作する仕事を手掛けています。またimmからリリースした森栄喜の作品ではテクニカル・パートを担当しました。そして会場となるlistudeの代表である鶴林万平氏が手掛けるスピーカーは独自の設計思想が反映されたもので様々な分野から注目されており、映像作品やサウンド・インスタレーションの設営にアーティストより機材指定を受けることが多いことで知られています。
柳沢氏、ばば氏からは音を捉える、録音の入り口となるマイクや録音環境について、鶴林氏からは音が出力される装置であるスピーカーと音が放たれる環境や場所固有の響きについて、お話いただくことで、“聴くことから生じる思考や環境に対する知覚のあり方”を観客のみなさんと共有したいと考えています。
-プログラム2 迷曲喫茶?名曲喫茶!with 移動喫茶キンメ [15:45~17:00]
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第二次世界大戦後、日本において家庭用・個人用のオーディオ・システムが普及するまでは『名曲喫茶』や『ジャズ喫茶』という名称の喫茶店で名盤を楽しむ営業スタイルが流行しました。
このような喫茶の営業スタイルは、音楽鑑賞の場としてだけでなく、人々の交流や文化を育む社交の場として機能してきたことで知られています。
今回、移動喫茶キンメとコラボレーションし、1日限りの名曲喫茶(迷曲喫茶)を営業します。
登壇者らが紹介する音源について放談しつつ、第一部で鶴林氏より紹介されたlistudeのオーディオ・システムの特徴を知る機会にしたいと思います。
-プログラム3 パフォーマンス [公開録音] 米子匡司 [17:15~18:30]
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アーティストの米子匡司氏の作品の公開制作(公開録音)を行います。
米子氏は非楽器から生じる音にフォーカスした作品や日常空間で意識されることが稀な現象などを音へ還元するパフォーマンスを手掛けてきました。オーディオ機器の製造・開発を手掛けるlistudeのショールームにて、空間に定在する音や反響を利用した米子氏の作品の上演(パフォーマンス) をお楽しみください。
主催: immeasurable
共同制作: listude
特別協力: 移動喫茶/鍼灸キンメ
助成: アーツサポート関西